天然林択伐や、間伐による針広混交林誘導型人工林施業においては、上木の伐採時に伐木や搬器の衝突による下木の損傷が発生する。損傷の影響は即時的な滅失に留まらず、損傷木のその後の成長や生残にも及ぶと考えられるが、その実態は明らかではない。本課題では、針広混交林で行われる天然林択伐と、針葉樹人工林の間伐による混交林化を対象に、広葉樹下木の損傷実態と成長や生残への影響を解明し、損傷影響の予測や低減策の提案を行う。今年度は、択伐時の損傷程度や要因過程が調査されている試験地の5年後の追跡調査から、下層小径木の損傷が成長と生残に及ぼす影響を調べた。択伐時に行われた先行調査では、胸高直径5cm以上の立木の損傷が明らかにされているが、今回はより小さい下層木(樹高1.3m以上の幼木)の損傷とその後の成長や生残との関係を重点的に調べた。幼木の損傷は、よりサイズの大きい下層木すべての損傷率(20%強)を上回っており(30%)、壊滅的な損傷も20%とより大きなサイズに比べて明らかに高かった。この損傷率や強度は風倒による自然撹乱由来の損傷よりも高かった。さらに、択伐後の成長や生残も低下しており、無傷の幼木の生存率(82%)に対し、損傷幼木の生存率は32%にまで低下していた。これまでは、下層小径木は自然の競争などにより、より大きなサイズになるまでに相当枯死するので、伐採による損傷は無視できるのではないかと考えられていた。しかし、今回の結果から、伐採による下層木の損傷は伐採時の減少だけでなくその後の成長低下を通して生存率を著しく低下させていることが示された。このことは、下層木の損傷を減らすことが持続的な択伐施業にいかに重要であるかを示していると考えられる。
|