本研究の目的は、施業伐採による下層木損傷の実態解明と、損傷が下層広葉樹の成長低下・枯死につながるかの検証にある。 背景に掲げたように、択伐を繰り返した天然林で下層木が少なくなることが明らかになっていた。下層木が減ることは将来収穫できる木の減少を意味し、収穫の持続性を損なう資源管理上の大問題である。天然林の択伐においては残木のおよそ2割程度が損傷するので下層木減少の原因と考えられたが、ほとんどは樹体の全体ではなく一部が損傷するので、残木のおよそ2割が伐採で直ちに減失するわけではない。択伐による樹体の損傷が、成長を低下させる、あるいはより短期的に死亡につながることによって減少するというプロセスが想定され、その検証という本研究の目的は択伐施業林の管理を改善するためには不可欠である。 本年度は、伐採による立木の損傷と成長・生残の関係、実験的に損傷した試験木の成長の調査を計画した。まず、天然林の択伐現場における下層木の損傷形態を精査し、上木伐倒時に起こりやすい枝の折損と、伐倒上木の搬出過程で起こりやすい衝突による幹の剥皮に大別した。下層木の大きさでは、サイズの小さいもので損傷率が高くなっていた。次に、損傷と生残の関係を分析したところ、サイズの大きいものでは重篤な損傷を除くと損傷による以降の死亡はほとんどみられなかったが、サイズの小さなものでは損傷による生存率の顕著な低下が検出された。これらの結果は択伐時の損傷が下層木を減少させることを裏付けている。 択伐は一部の上木を抜き伐りするので下層木の光環境は上が伐られた明るい場所と上木が残った暗い場所に分かれる。また樹種によって光の要求性が異なる。これらの要因下での損傷の影響を実験で検出した。択伐は下層木の樹冠を折損することを通して、明るい環境を好む樹種の成長をとくに減少させ、樹種サイズ構成を改変してしまう可能性があることが確認された。
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