天然林の豊かな群集構造を維持するしくみとして、小規模の撹乱で生じる林冠の空隙、いわゆる林冠ギャップに対する生物個体群の様々な反応は重要とされる。しかしこのポピュラーな仮説は、実はほとんど実証されていない。本研究は、成熟林における多数の林冠ギャップ(以下ギャップ)を約20年間追跡し、冷温帯落葉広葉樹林の樹木群集の更新動態について定量的な解析を行う。研究期間を通し、優占種や先駆的樹種の個体群について更新の実態をギャップの役割と共に明らかにする。また温帯の樹木群集の多様性について、持続性を検証する。 調査は北茨城市の小川群落保護林で行い、本年度は過去のギャップ調査の復元と再調査を行った。53ヵ所のギャップで調査区を復元し、ギャップの大きさと成育する稚樹の調査を行った。新しいギャップの調査区は追加していない。結果は次のようになった。 ギャップが古くなると衰退する種がある。幹数では1990年に多かったリョウブ、ミズキ、ウリハダカエデなどは2009年にはほぼ姿を消し、また死亡率では他にヤマウルシ、ミズメなどが高かった。いわゆる陽樹が多い。 ギャップ更新は地形に影響される。ギャップ内では陽樹が多い傾向があったが、それは尾根で顕著であり、また谷部では時間経過に伴い耐陰性の高い種が先行して優占していく傾向があった。 またギャップ更新はギャップの大きさによる影響を受ける。ギャップの大小によっていくつかの樹種の稚樹密度が偏った。しかし1990年に顕著な傾向が2009年にはなくなり、ギャップサイズの影響は形成後の早い時期で強いと言えた。 一方、樹木の鳥散布による繁殖はギャップへの依存度が高い。試験地の樹種を種子散布型により風散布型、鳥散布型、その他に3分類したとき、試験地全体の幹数では風散布型が過半数を占めるのに対し、ギャップ内では均等で、特に形成後30年以下のギャップでは鳥散布型が多かった。
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