天然林の群集構造を維持するしくみとして、小規模の撹乱で生じる林冠ギャップに対し、個体群ごとの様々な反応があることが重要とされる。しかしこのポピュラーな仮説は、実はほとんど実証されていない。本研究では、北茨城市の成熟林において多数の林冠ギャップに生育する稚樹群集を調査、追跡することで、樹木群集の更新動態の実態を追った。 本年度は再測を終え解析を進めた結果、前年実績を支持する以下の結果を得た。 1.耐陰性の低い樹種の経年減少:1990年にギャップで多数観察された明るい場所を好む樹種は、同じ調査区の19年後にはほぼ姿を消した。また古いギャップでは、高耐陰性と考えられる種の稚樹が残存する傾向が、顕著だった。 2.サイズ効果の経年減少:1990年にはギャップの大きさによる更新樹種組成の違いが強く見られたが、同じ調査区の19年後ではごく不明瞭となった。 3.鳥散布型種子樹種の偏り:稚樹の樹種ごとの種子散布型について、固定試験地全体では風散布型の稚樹数が過半数だったのに対し、ギャップ内に限れば鳥散布型が拮抗していた。特に形成後30年以下の若いギャップでは鳥散布型の比率が高かった。 4.地形効果の差違:ギャップ内でいわゆる陽樹が多い傾向は尾根部で顕著であった。時系列的な出現傾向は、種ごとに違いがあることが明らかになった。 ギャップ内の稚樹群集とその経年変化をみることで、林分の種構成が維持されている実態が示され、日本生態学会大会で発表した。
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