天然林の群集構造を維持する仕組みとして、小規模の撹乱で生じる林冠ギャップに対し、個体群ごとの様々な反応があることが重要とされる。しかしこの仮説はポピュラーでありながら実証されていない。本研究では、北茨城市の成熟林において多数の林冠ギャップ(以下ギャップ)で生育する稚樹群集を調査、追跡することにより、樹木群集の更新動態の実態とギャップとの関係を調べた。 最終年度である本年度は、従前の設定で捕捉できない樹種を観測した。調査地の撹乱体制の基で多様性維持におけるギャップの役割を解析し、以下のようにまとめた。 1.時系列的多様性を提供。ギャップが古くなると衰退する種があり、いわゆる陽樹が多かった。 2.立地条件による多様性を提供。これまでの知見を支持し、ギャップ内では陽樹が多い傾向があった。 これは尾根の近くで顕著であり、また時系列変化を見ると、谷近くでは耐陰性の高い種が先行して優占していく傾向があった。 3.大きさによる多様性を提供。これまでの知見を支持し、ギャップの大小により稚樹密度が偏る種があった。しかしその傾向は、ギャップ形成後の早い時期でのみ、強く示された。 4.特定の樹種に更新の機会を提供。試験地の樹種を種子散布型で分類したとき、ギャップ内では鳥散布型の割合が他の場所より高く、特に形成後30年以下のギャップで多かった。一方、撹乱に依存が高いとされる樹種は、十分に捕捉できなかった。試験地と近傍を精密に踏査した結果、ミズメ稚樹を1個体発見し、カンバ類は確認されなかった。また試験地で過去25年以上の観察期間を通じて、それらの生存した実生はなかった。 5.以上から、一部の樹種の更新機会はごく限られていることが確認されたものの、ギャップに対する種ごとの様々な反応が、種の多様な森林群集を形づくっていると結論された。
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