実生更新立地としての倒木・根株の評価および更新への菌根への関与を明らかにするため、長野県木曽町三岳、および滋賀県大津市比叡山の壮齢ヒノキ造林地において、倒木上に発生している実生を採取して、その菌根形成状況と当年生葉の窒素濃度との関連を解析した。 実生の当年生葉の窒素濃度は三岳、比叡山とも0.8~1.2%で、その平均値の間には両サイト間に有意な差は見られなかった。実生の菌根形成率は両サイトとも0~90%と非常に広いばらつきを示し、比叡山の実生で三岳よりやや低い傾向があったが、統計的に有意な差は見られなかった。両サイトとも、菌根形成率と当年生葉の窒素濃度との間には有意な相関関係は見られなかった。これにより、少なくとも窒素に関しては、実生が菌根を形成することによる栄養的な利得は顕著ではないことが示唆された。 三岳の倒木上に更新していた実生の周辺の基質を接種源とし、ライムギを用いてトラップカルチャーによる菌根菌の増殖と菌種の同定を試みた。その結果、ライムギの根にアーバスキュラー菌根の形成が確認され、基質中に菌根菌の繁殖体が存在することが裏付けられた。また、ヒノキ実生の根を接種源としてトラップカルチャーを行った場合でも、同様にライムギ根に菌根形成が見られ、倒木・根株上に菌根菌が持続して存続、拡大しうる可能性が示唆された。しかし、トラップカルチャーに用いた土壌中への菌根菌胞子の形成は極めて乏しく、菌根菌種の同定には至らなかった。
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