研究概要 |
木材は数μm径の細管から成る細胞構造を持つ。反応場をマイクロサイズにすると、化学反応そのものに本質的な影響を与え、マクロで実現しない反応でも効率よく展開されることが知られている。本研究では、木材の天然の細胞構造を微小反応装置として機能させることで、木材自身が熱分解して放出する微量なガスを原料とした気相成長により、新奇なカーボン材料を創製する。さらに、炭化後も保持される木材由来の細胞構造を、微小反応装置として再度活用して機能材料化に用いる。これらの材料創製をとおして、木材細胞構造の微小反応場としての機構(マイクロシステム)を明らかにすることを目的としている。 研究実施計画では、(1)気相成長炭素の創製と、低温形成と収率増大を目指した方法の効率化を一年目に、(2)生成した気相成長炭素を担持した細胞構造を利用した機能材料化を次年度以降に遂行することとしたが、実際には同時並行して遂行し、(1)に先駆けて(2)に関する成果が得られたので、以下に記述する。 木材にSiCを添加して2000℃以上で炭化すると、木材の熱分解ガスを炭素源として気相成長炭素物質「円錐黒鉛ウイスカー」が細胞壁面に生成するが、この円錐黒鉛ウイスカーは、炭素六角網平面の円錐がらせん状に堆積した、構造規則性の極めて高い針状の炭素物質である(Saito et al., Carbon,2007)。今回、この円錐黒鉛ウイスカーを担持した細胞を、細胞構造を保持したままで電極として用いる電気酸化法により炭素六角網平面層間への硫酸の挿入(イシターカレーション)を試みた。顕微ラマン分光により、両者に硫酸の層間挿入がみとめられた。この結果は、らせん円錐構造をとる炭素六角網平面のインターカレーションの可能性を示すものであると同時に、円錐黒鉛ウイスカーが細胞内腔に担持された状態で細胞骨格ごと反応させる、新しい素材創製の手法であり意義深い。この成果を第60回日本木材学会大会(2010年3月)で発表した。
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