木材にSiCを作用させて非酸化性雰囲気で2000℃以上に加熱すると、細胞壁から発生する熱分解ガスを炭素源とした気相成長により、ヘリンボン型炭素物質が生成する。このヘリンボン炭素は、炭素六角網平面が頂角136°の円錐を成してらせん状に連続して堆積し、径数μm、長さ数十μmの針状に成長した炭素物質である。この生成において、数μm径の細管から成る木材の細胞構造は、細胞壁から発生した少量の熱分解ガスを、その細胞内腔に貯めて効率よく固相沈着させる役割を担うと考えられている。反応場をマイクロサイズにすると、化学反応そのものに本質的な影響を与え、マクロで実現しない反応でも効率よく展開されることが知られている。本研究では、木材の天然の細胞構造を微小反応装置として機能させることで、(1)木材自身が熱分解して放出する微量なガスを原料とした気相成長で生成する新奇なカーボン材料のキャラクタリセしション、(2)さらに、炭化後も保持される木材由来の細胞構造を、微小反応装置として再度浩用して機能材料化に用いることをめざしている。これらの材料創製をとおして、木材細胞構造の微小反応場としての機構(マイクロシステム)を明らかにすることを目的とする。 H22年度は、ヘリンボン炭素が足場とする細胞構造もろとも加工・利用する方法について重点的に取り組んだ。細胞骨格をそのまま陽極として用いることで、その細胞内腔に生えたヘリンボン炭素を帯電させ、硫酸中電気酸化処理により硫酸ヘリンボン炭素層間化合物を合成することに成功した。また、硫酸黒鉛層間化合物を加熱して「膨張黒鉛」を得るように、硫酸ヘリンボン炭素層間化合物から膨張ヘリンボンを得ることに成功した。この膨張ヘリンボンは電子線照射によるチャージにより、バネ挙動を示すことを発見した。この成果の一部を炭素材料学会および員本木材学会大会で発表し、投稿準備中である。 この結果の意義は、ヘリンボンの単離収集の困難さを避け、細胞内腔が反応場として生成したヘリンボン炭素を、足場細胞壁ごと陽極として加工する方法を見出した点にある。また、この方法による加工で得ることができた新規な「膨張ヘリンボン」は、らせん状の炭素構造の「マイクロサイズのバネ」としての新しい物性利用可能性を提示するものとして重要である。
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