研究概要 |
木質系セルロースのナノ粒子化による高機能化および新規複合材料の創製を目的として研究を進めた。木質セルロースは、グルコピラノース環がβ1,4グリコシド結合により連鎖したものである。従来のセルロースの機能化は、β1,4グリコシド結合の切断が困難であったため、グルコピラノース環上のOH基の化学修飾に限られていた。これまでとは全く異なる新規機能性材料の創製のためには、セルロース主鎖の化学修飾が必要である。そこで、木質系セルロースのナノ粒子化に伴うβ1,4グリコシド結合の切断に基づくセルロースブロック共重合体の合成を試みた。木質セルロースのモデル化合物としてセルロース純度が高く産生が容易であるバクテリアセルロース(BC)を酢酸菌により産生させ、これを精製、真空乾燥しBC試料とした。自作の装置を用い真空中77KでのBCの機械的破壊を行い、粉砕試料の電子スピン共鳴(ESR)観測、自作のシュミレーションプログラムを用いたESRスペクトルの解析から、セルロース主鎖のβ1,4グリコシド結合が切断し、主鎖末端型アルキルラジカル(BCメカノラジカル)とアルコキシラジカルが対で生成することを明らかにした。更に、BCメカノラジカルを開始剤としたメチルメタクリレート(MMA)のラジカル重合により、BC主鎖末端から成長したポリメチルメタクリレート(PMMA)ブロック共重合鎖(BC-block-PMMA)を合成し、ESRによるPMMA成長末端ラジカルの観測、FT-IRによるPMMAのカルボニル基の検知から共重合鎖の合成を明らかにした。更に、BC-block-PMMAのBCのOH基をアセチル化しBCTA-block-PMMAを合成し、BCTA-block-PMMAの^1H-NMR観測からグルコピラノース環の1,2,3,4,5,6,6'のプロトンおよびPMMAのメチレン基、メチル基、エステル基のプロトンを同時に検知したことからもBC-block-PMMAの合成を明らかにした。また、BCの機械的破壊によるナノ粒子化とともにBC-block-PMMAが合成できたことは、BCナノ粒子表面がPMMAブロック共重合鎖により化学修飾されたことになり、これは従来とは全く異なる化学修飾であり、新規機能性材料の創製になる。この研究に関し特許を2件出願した。
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