研究概要 |
樹木の葉はバイオマス資源の中でも未利用の割合が特に高い。その有効活用のための化学分析を行う上で、樹葉中のリグニンの存在が常に問題となっている。一般的なクラーソン法を用いた樹葉のリグニン分析は過大な値を与えることが知られており、樹葉中のリグニンに関して厳密な検証を行った例はきわめて少ない。本研究では、リグニン固有のβ-アリルエーテル結合のみから分解生成物を得ることのできるDFRC法を用いて樹葉の分解処理を行い、樹葉リグニンの存在の確認、ならびにその分布と木部リグニンとの差異の検証を行うことで、葉の中に多種多様に存在するフェノール類の中で高分子リグニンが果たす役割を明らかにすることを目的とする。 23年度は広葉樹の葉に含まれるリグニンの樹種による量の違いと構造について詳細に検討を行った。日本産の9種類の広葉樹の葉に含まれるリグニンをDFRC法で分析した結果,10%近いリグニン含量を示すマテバシイ葉からほとんどリグニンの含まれないソメイヨシノ・カキの葉に至るまで、樹種によって含量に大きな差があることが判明した。また、分析によって得られる生成物の量比より、リグニン構成単位のS/G比は木材の値と比較して大幅に小さいことが明らかとなった。材のリグニンの中でも維管束組織に沈着するリグニンのS/G比は比較的小さいことが知られていること、また前年度に判明した針葉樹葉リグニンの維管束組織への局在を合わせて考えると、葉のリグニンの役割としては葉全体の構造的な強化よりは、水分通道を確実に行うための通道組織の疎水性向上が主であることが示唆された。
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