本研究の目的は、広葉樹において形成層帯(道管要素などの木部細胞を生産する分裂組織)付近のオーキシン(植物ホルモンの1つ)レベルの変動が管孔(道管の横断面)の配列パターンに及ぼす影響を、インタクトな(傷を付けない完全な)樹木において、樹種本来のオーキシンレベルの変動の範囲内で解明することである。そこで、今年度は、管孔の径の大きさと配列パターンをもとに散孔材樹種としてトチノキとブナ、環孔材樹種としてクリとケヤキを選び、「冬芽の萌芽と道管形成の再開が起こる順序を逆転させた樹木の創出」と「形成層帯付近のオーキシンレベルの変動を検出する条件の探索」に取り組んだ。 樹幹を局部的に、環孔材樹種では4月初旬から冷却し、散孔材樹種では3月初旬から加温し、各処理部に形成される管孔の配列パターンを観察した。局部冷却または加温処理によって、冬芽の萌芽と処理部における道管形成の再開が起こる順序を逆転させることができた。しかしながら、各処理部では、それぞれの樹種に特徴的な管孔の配列パターンが観察された。 それぞれの樹種について、1成長期を通して形成層帯付近の組織を定期的に採取した。固相抽出法、内部標準法と高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析器(LC/MS/MS)をもちいて、形成層帯付近のオーキシンレベルを測定した。 固相抽出製品をもちいることにより、従来の溶媒分画法に比べて形成層帯の抽出物の精製にかかる時間と有機溶媒の量を大幅に減らすことができた。内部標準法とLC/MS/MSをもちいて効率的に形成層帯付近のオーキシンレベルの変動を検出するための条件が見つかった。散孔材樹種と環孔材樹種では、萌芽時期前後の形成層帯付近のオーキシンレベルの変動パターンに違いが認められた。
|