管孔の配列パターンと冬芽の萌芽前後の形成層帯付近に内生するオーキシン(IAA)の変動との関係について検討するために、樹幹の一部を局所的に、環孔材樹種としてクリとケヤキでは冷却し、散孔材樹種としてブナでは加温することによって、樹種本来の冬芽の萌芽と道管形成の再開が起こる順序を逆転させた。この実験には、これまでに用いてきた苗木に比べると種に特異的な管孔の配列パターンが比較的に安定して形成される5年生程度の個体を供試した。環孔材樹種としてクリとケヤキ、散孔材樹種としてブナとトチノキについて、休眠期から萌芽および展葉時期にかけて定期的に、形成層帯付近におけるIAA量の測定と道管の形成状況の観察をおこなった。 IAA量には、同じ樹種でも個体による変動がみられた。散孔材樹種と環孔材樹種との間には、IAA量の季節変動に大きな違いが認められた。環孔材樹種では、5月上旬から中旬にかけてIAA量が増加した。一方、散孔材樹種では2月から5月の間にIAA量の増加は認められなかった。 IAA量の季節変化と同様に、道管形成においても散孔材樹種と環孔材樹種との間に大きな違いが認められた。環孔材樹種では、IAA量の増加が認められなかった2月から4月までは、道管は形成されず、5月にIAA量の増加が認められた個体でのみ、孔圏部に道管が形成された。IAA量の増加時期がクリよりも早いケヤキでは、クリよりも早い時期に道管が形成された。一方、散孔材樹種では、いずれの試料採取時期においても道管形成は認められなかった。 これらの結果から、同じ生育環境下では環孔材樹種の方が散孔材樹種よりも道管形成の再開時期が早く、IAA量の増加時期と道管形成の再開時期が一致することがわかった。
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