研究概要 |
中心目珪藻Skeletonema属は世界中の沿岸・内湾に出現する植物プランクトンであるが、近年,S.costatumとされてきた種が複数種からなることが報告され(e.g.Sarno et al., 2005),東京湾からもS.dohrnii, S.japonicum, S.tropicum, S.japonicum-dohrnii complex(S.j-d)が単離された。これらについて,光環境と光合成色素の関係を調査した。HPLCにより分離された光合成色素は,いずれもChlorophyll a (Chl a), Fucoxanthin (Fuco), Chlorophyll c_2 (Chl c_2),Diadinoxanthin (Dd), Diatoxanthin (Dt), β-carotene (β-caro)であった。各種のChl a含量は、総じて弱光で大きく,強光で小さくなったが,S.tropicumとS.j-dは10~20μmol m^<-2>s^<-1>よりも低照度でChl aが減少し,弱光への適応力にが低いことが分かった。光捕集色素であるFucoとChl c_2の濃度変化は種よって異なったが,光防御色素であるDd+Dtは,全種において弱光から強光になると増加する傾向がみられた。さらに,キサントフィルサイクルの脱エポキシ化率{Dt/(Dd+Dt)}より,S.dohrniiとS.tropicumは他の2種よりも強光下で光防御機構が作用することが示された。種による光適応は,S.dohrniiは弱光から強光まで幅広く適応すること,S.tropicumは強光での適応力が高いこと,S.japonicumは低・中照度でも5-10%程度の脱エポキシ化率が維持されており光適応は不明瞭であったこと,S.j-dは,S.dohrniiと似た光防御機構を示したが,色素組成の変化は本株特有であったことが明らかになった。
|