研究概要 |
中心目珪藻Skeletonema属は世界中の沿岸・内湾に出現すると考えられてきたが,近年,S.costatumとされてきた種が複数種からなることが報告された(e.g.Sarno et al., 2005).そこで,東京湾より単離された4種S.dohrnii, S.japonicum, S.tropicum, S.japonicum-dohrnii complex (S.j-d)について増殖特性を調べた.S.dohrniiの最大増殖速度は,温度30℃,塩分30および35で1.90d^<-1>であり,いずれの温度,塩分条件でも増殖したことから,広温・広塩性の種であると考えられた.S.japonicumの最大増殖速度は,温度30℃,塩分30で1.53d^<-1>で,いずれの温度でも塩分10では増殖しなかった.本種の塩分耐性は,温度25および30℃よりも10-20℃の方が広かった。したがって,東京湾における冬季の低温環境ではS.japonicumが卓越し,塩分変化の大きい河口付近や夏季の高温環境ではS.dohrniiが卓越すると考えられた。S.tropicumの最大増殖速度は,温度30℃,塩分25で1.28d^<-1>で,15-30℃では増殖したが,10℃では増殖しなかった。また,最適塩分は25であった.これより本種は温暖種であり,中程度の塩分を好むと考えられた。S.j-dの最大増殖速度は,温度25℃,塩分25で1.09d^<-1>と4種の中で最も低かった。そして,温度30℃ではいずれの塩分条件でも,さらに,塩分10ではいずれの温度条件でも増殖しなかった。これら4種の増殖特性を比べると,もっとも広く分布が可能であると考えられるのがS.dohrniiであった。また,水温10℃などの低温下ではS.japonicumが卓越するが,S.j-dは4種の中でもっとも増殖能力が低く,優占することは無いと考えられた。
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