本研究では有機汚濁水域に蓄積している硫化水素を酸化する光合成硫黄細菌の生態を調べるための手法を開発し、硫酸還元菌による硫化水素生成と硫黄細菌による硫化水素の消滅過程を微生物学的に解明することを目的とした。今年度は光合成硫黄細菌の特異的な検出・計数法の開発を行った。光合成硫黄細菌の既報の亜硫酸還元酵素遺伝子(dsrAB)の塩基配列をもとに複数のプライマーを設計した。光合成硫黄細菌7種7株をカルチャーコレクションから入手し、各細菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR法によってdsrAB領域を増幅し、塩基配列を決定した。決定したdsrABの塩基配列を既報の配列と共に解析し、光合成硫黄細菌に特異的なPCRプライマーをdsrA領域に作成した。このプライマーの特異性を、相同性検索によって確認したところ、プライマーの認識配列を有する細菌は一部を除き光合成硫黄細菌のみであった。次に、菌株を用いてプライマーの特異性を確認した結果、一部の光合成硫黄細菌でない細菌株が非特異的に検出されたが、光合成硫黄細菌は12株全てが検出された。次いで、光合成硫黄細菌のブルームが見られる水月湖の水試料から抽出したDNAを鋳型にPCRおよびクローン解析を行ったところ、光合成硫黄細菌である緑色硫黄細菌と紅色硫黄細菌のみが検出された。これらの結果から、本プライマーペアは光合成硫黄細菌を特異的に検出することが示された。更に、このプライマーペアを用いたSYBR Green IアッセイによるリアルタイムPCR法での光合成硫黄細菌の計数方法について検討した結果、10^3~108コピー程度の範囲で遺伝子を定量することが可能となった。
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