本研究では有機汚濁水域に蓄積している硫化水素を酸化する光合成硫黄細菌の生態を調べるための手法を開発し、硫酸還元菌による硫化水素生成と硫黄細菌による硫化水素の消滅過程を微生物学的に解明することを目的とした。底層に硫化水素が多量に蓄積している水月湖の水柱と、東京湾の底泥から直接DNAを抽出し、PCRの鋳型とした。光合成硫黄細菌の亜硫酸還元酵素遺伝子を標的としたプライマーを用いてPCRを行い、クローン解析を行った。その結果、水月湖では、硫化水素が検出される酸化還元境界層以深から光合成硫黄細菌が検出され、年間を通して緑色硫黄細菌が主要な構成種であることが明らかとなった。この構成種は水深や季節によって若干異なっており、冬季にはγ-プロテオバクテリアの占める割合が高くなった。一方、東京湾の底泥からは表層のみから、γ-プロテオバクテリアを優占種とする硫黄細菌が検出されたが、泥の深部からは検出されなかった。このように、水域によって優占する硫黄細菌の種が異なることが示された。水月湖の光合成硫黄綱菌の群集組成に影響をおよぼす環境要因について統計解析を行ったところ、光量子量や塩分、硫化物濃度、溶存態無機炭素濃度によって群集組成が変動することが示された。また、定量PCR法によって計数した光合成硫黄細菌数は、酸化還元境界層に最も多く検出され、水深や季節によって変化した。以上のように、光合成硫黄細菌は硫化水素の存在する環境に存在し、硫化水素の酸化に寄与していると考えられる。様々な環境要因による影響を受け、その数や種組成は水域や季節などによって異なっていることが明らかとなった。
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