ナマコの体表に存在する疣足の形状は、マナマコの市場価値を大きく左右する重要な経済形質である。 疣足の数が多く、また長いものほど高値で取引される。本研究は、この形質の選抜育種に資するため、疣足形状の遺伝性等、生物学的特性について検討した。本年度は、交付申請書に記載したとおり、主に国内各地の野生集団を入手し、それらの疣足形質およびマイクロサテライトDNA(msDNA)をマーカーとした集団間の遺伝的差異について比較検討した。本年度新たに入手した野生集団は、新潟県、石川県、兵庫県2地点(瀬戸内海と日本海側)、および香川県産の5地点由来野生集団である。各数10個体を用いて、これらの体重、疣足数、および疣足長などを測定し、体重に対する疣足数および疣足長の散布図を描いた。また、これまで得られていた、北海道、青森県および岩手県産野生集団における同様のデータをこの散布図に加えて検討した。体重に対する疣足数については、本年度入手した北陸、西日本等の集団は、いずれも北海道および岩手県産のものに比べて明確に小さな値を示した。これらのことは、北海道および岩手県産集団が疣足数における育種素材として優良であることを示す。体重に対する疣足長については、上記全産地の中で兵庫県の日本海側にある浜坂のものが明確に高い値を示した。これらの集団の疣足数は低い値を示しているが、疣足数の多い集団との交配・選抜により、優良な形質(疣足数が多く、疣足長が長い)を育種できる可能性を示すものである。さらにmsDNAを分析したところ、各アリルの頻度分布が産地間で差異を示しており、野生集団間で遺伝的な交流が少なく、遺伝的に独立した集団が存在する可能性を示した。以上、疣足形質の野生集団における特徴およびそれらに対する遺伝的な解析を行ったことは、本種の重要形質である疣足形質の効果的な選抜育種技術開発に資するものである。
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