研究概要 |
【目的】水銀は人体に有害な物質であるが,人体に蓄積される水銀の約90%は魚介類由来といわれている。よって,魚介類の消費量が多い日本では魚介類に含まれる水銀量を低下させることは大きな課題の1つである。そこで本研究では,養殖魚に強制的な運動飼育を施すことにより新陳代謝を活発化させ,魚体内の水銀をより早く排出させることを目的とした。 将来的には水銀量の多いマグロ類に応用することを目標とするが,その前段階として今回はマダイを用いて実験を行った。可食部の筋肉が主たる実験対象であるが,肝臓は筋肉中のメチル水銀を脱メチル化し無機水銀に換え肝臓内に蓄積する作用をもつため,この解毒作用が運動飼育により促進されるか否かも併せて調査した。 【方法】飼育方法2つの飼育タンク(止水区,運動区)においてマダイ各5尾の筋肉(背鰭前)と肝臓をサンプルとした。水槽は直径2.3m,海水の循環速度を7t/hourとし,海水の吹き出し口の方向を変えることにより運動区では中央部での流速を14cm/secとした。一方,止水区の水槽の流速はほぼ0cm/secとした。この環境下で4ヶ月間の飼育を行った。総水銀測定 試験管に試料(筋肉2g・肝臓0.4g)を入れ,濃硝酸10mlと過塩素酸5mlにより100℃で3時間分解した。試料液を還元気化装置に移し,10%塩化スズ10mlを加えて水銀を気化し,原子吸光光度計で吸光度を測定した。 【結果と考察】飽食飼育を続けた結果,給餌量は止水区に比べ運動区において少なくなった。これは水流がマダイにとってストレスとなったためと思われた。ただし,体重は両区の間に差はないことから,運動による餌料効率の向上が生じたのかもしれない。筋肉総水銀濃度は優位さはないものの運動区においてわずかに低かった。この結果が給餌量の差によるものか,新陳代謝の活発化によるのかは不明である。
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