研究概要 |
本研究の目的は,海産有毒プランクトンに寄生する菌類の形態・分子分類,生活史,および生態を現場調査および室内実験により解明し,これまでほとんど知見がなかった海洋生態系における寄生性菌類の役割を明らかにすることである。本年度はまず,宿主となる海産渦鞭毛Alexandrium tamarenseのシスト含む海底泥試料を得るため,愛知県三河湾東部海域に設けた3定点でエックマンバージ採泥器による採泥を実施した。得られた海底泥試料について,Primulin蛍光染色法によってシストの分布密度を調べ,培養実験に必要な高いシスト密度を有する泥試料(>4,000個/g)を特定した。この海底泥試料について,サイズ分画と超音波処置を行って泥懸濁液を調製し,それらをA.tamarenseシストの発芽に好適な条件(12.5℃,光照射下)で培養した。その結果,培養開始後8日目から,遊走子が付着した発芽細胞が出現し始めることが分かった。付着した遊走子は,宿主細胞の表面で成長・増大し,それにつれて内部に小型の顆粒が多数認められるようになった。さらに成長が進むと,この菌体内部に遊走子と考えられる小型粒子が充満し,遊走子嚢となった。遊走子嚢は,直径約20μmの球形であり,周囲に修飾物は持たなかった。その後,遊走子は遊走子嚢内で活発に運動し始め,最終的には外部に放出された。放出孔には少なくとも蓋状の構造はみられず,無弁型と思われた。走査電顕観察の結果,遊走子は頭部が約2μmの球形で,後端に長さ約16μmのムチ型鞭毛1本を有し,鞭毛とは逆方向に遊泳した。以上のような菌体および遊走子の形態学的特徴から,本菌は真菌類ツボカビ目の一種と考えられた。また,予備的に実施した18SrDNAによる分子系統解析もこの結果を支持するものであった。本研究により,海産渦鞭毛藻に寄生するツボカビの存在が初めて明らかになった。
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