研究概要 |
本研究の目的は、海産有毒プランクトンに寄生する菌類の形態・分子分類,生活史,および生態を現場調査および室内実験により解明し,これまでほとんど知見がなかった海洋生態系における寄生性菌類の役割を明らかにすることである。本年度はまず,宿主となる海産渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseのシスト含む海底泥試料を得るため,三河湾東部海域においてエックマンバージ採泥器による採泥調査を実施した。得られた試料から海底泥懸濁液を調製し,それらをシストの発芽に好適な12.5℃,光照射下で培養した。その後,毎日,泥懸濁液を採取・固定し,プリムリン蛍光染色を行って,遊走子の付着から遊走子放出までの発達過程を蛍光顕微鏡によって詳細に観察した。また,ツボカビの分類形質として最も重要とされる遊走子の微細構造を透過型電子顕微鏡によって調べた。菌体の発達過程を調べたところ,遊走子が付着した宿主細胞は,培養開始後8日目から観察され始め,11日目にピークをむかえた後,減少した。成熟した遊走子嚢は11日目から見られ,出現頻度はその2日後に最大となった。その後,空の遊走子嚢の割合が増加した。以上の経過から,本菌の生活環はほぼ2日という極めて短時間で完結することが分かった。遊走子は,脂質粒子を1個有し,ミクロボディ-脂質小球粒複合体と1個のミトコンドリアならびにリボソームが細胞中央にまとまって位置するが,核はそれとは一線を画するように位置するといった形態学的特徴を有することが明らかとなった。これらの特徴をBarr(2001)の分類体系と比較した結果,本菌の微細構造は5つのタイプのうちツボカビ目の特徴と一致することが判明した。この結果は,昨年度に報告した菌体,鞭毛および予備的な分子系統解析の結果とも一致するものであった。本研究により,海産渦鞭毛藻に寄生する菌はツボカビ目であることが初めて明らかになった。
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