研究概要 |
本研究の目的は,海産有毒プランクトンに寄生する菌類の形態・分子分類,生活史,および生態を現場調査および室内実験により解明し,これまでほとんど知見がなかった海洋生態系における寄生性菌類の役割を明らかにすることである。本年,大阪湾の海底泥試料から泥懸濁液を調製し,12.5℃の光照射下で培養したところ,A.tamarense発芽細胞に寄生するツボカビが認められた。それらの菌体および遊走子の外部形態は昨年度までに三河湾から発見した菌と酷似していた。両海域から得られた寄生性ツボカビについて18Sリボゾーム遺伝子の塩基配列を決定した。合計30の配列についてBLAST検索を行ったところRhizophiyctis harderiと相同性が高いとの結果が得られた。これらの結果から,A.tamarense寄生性ツボカビが日本沿岸域に広く分布している可能性が示唆された。本菌の培養系を確立するため,三河湾ツボカビの成熟した遊走子嚢を分離してPmTG寒天培地に接種したが,培養は成功しなかった。一方,A.tamarenseの栄養細胞から調製したテンポラリーシスト状細胞に接種した場合には寄生が成立し,最大24日間,継代培養が可能であった。また,6月に仙台湾から採取した海底泥試料を培養したところ,渦鞭毛藻Scrippsiella属シストに寄生する菌が認められた。本菌の遊走子嚢の形態は逆洋ナシ型,蓋は無く,遊走子は鞭毛を1本有したことから,本菌もツボカビの一種と考えられた。この結果は,海洋環境中にも各種ツボカビが存在することを示すものである。しかも今回,海底泥中で休眠しているシストにも寄生する真菌が見つかったことは,水柱のみならず,堆積物中でもツボカビの寄生が起こっていることを示すものであり,生態学的に意義が大きい発見であると考えられる。
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