研究概要 |
本研究は東北沖の海洋生態系を対象とし,過去の漁業データを用いて複数漁法の多魚種CPUE(単位努力量あたり漁獲量)を解析する数理モデルを開発し,各魚種の相対豊度を推定する。それと並行して高次捕食者であるキタオットセイの35年に及ぶ摂餌生態資料を独立情報源として用いることでCPUE解析のバイアスを補正し,未利用生物資源までを含む各魚種の相対豊度の長期変動履歴を推定する。 漁業データとして宮城県農林水産統計年報に掲載された魚種別漁法別漁獲量,努力量データを1955年から2005年まで50年分電子化した。しかし,年代によって漁業や魚種の名称や区分が異なり,東北沖以外の操業データを含むことが判明したため,宮城県塩竈市にて地域漁業の実態に詳しい専門家を招いてシンポジウムを開催し,データの統一に必要な情報を収集した。長期漁業データ解析の重要性を説いたシンポジウムでの基調講演を岩波書店の『科学』に投稿した。 多魚種CPUE解析の基礎となるアロメトリー関係式とロトカ・ボルテラ型捕食関係を組み込んだ生態系モデルを開発した(日本水産学会にて口頭発表)。生態系構造の変遷を評価するために必要となる生物群集の類似度指数について文献レビューを行い,総説論文を執筆した(日本生態学会誌に投稿中)。 1968~1998年のキタオットセイの個体別胃内容情報を整備し,餌生物種別の出現確率の年変化を解析した結果,餌生物の資源豊度の年変動を検出できる可能性が示唆された(水産海洋学会にて口頭発表)。ホルマリン保存されていた1969~2006年の組織標本を154検体分抽出し,一部について窒素安定同位体を分析した結果,日本近海における小型浮魚類の豊度変化(魚種交替)に応じた安定同位体比の変化を確認することができた(日本生態学会にて口頭発表)。
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