研究概要 |
1952-2006年の宮城県沖漁業データを整備し,努力量あたり漁獲量(CPUE),漁獲i物の多様度指数,平均栄養段階(TL)の経年変化を計算するプログラムを作成した。総漁獲量は1960年代と1980年代が高く,多様度指数は逆に1970年代と2000年代が高かった。また漁獲物栄養段階は緩やかな減少傾向を示した。これらはPaulyらがフィッシングダウン説として示した漁業による資源枯渇と生態系破壊という単純な図式とは異なっており,サンマ,サバ,マイワシといった卓越魚種の交替を反映するものであった。 1968-2006年に東北沖で捕獲されたオットセイ約5000頭の胃内容物と年,海洋環境,成熟段階等の関係をロジスティック・モデルにより解析し,餌生物の出現確率の経年変化を推定した。サバ類は1970年代に,マイワシは1980年代に出現確率が上昇しており,魚種交代と一致する傾向が確認され,またハダカイワシ類などの非漁獲対象生物の変動も確認された。 窒素安定同位体分析によりオットセイ雌獣の栄養段階を推定した結果,サバ類卓越期(1969~1980年)の3.9から,マイワシ卓越期(1987~1988年)には3.7に低下し,魚種交替に伴う食物連鎖長の短縮が確認された。この変化は漁獲物の平均栄養段階より急であり,漁業と高次捕食者では食物網の構造変化に対する応答が異なることが示唆された。 以上の結果より,海洋生態系の経年変動にはトップダウン効果だけでなく,レジームシフトのようなボトムアップ効果の影響が大きく,漁業と生態系の関係も水域によって異なることが確認された。当初計画では漁業とオットセイの情報に基づく生態系モデル構築を想定したが,長期漁業データの不確実性が大きいため,調査データ等から生態系モデルを作成した上で,そこに漁業と高次捕食者の時系列情報を組み込む方が確度の高い推定が可能であり,そのアプローチから新たな研究展開に着手している。
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