研究概要 |
前年度までに、新規トポイソメラーゼ阻害物質であるイソラメラリンの合成に成功し、このものが培養がん細胞HeLaに対して親化合物ラメラリンを凌ぐ高い増殖阻害活性を示すことを明らかにした。本年度は対称性の候補分子ビスラクトン及びラクタム型のアザイソラメラリンの合成と生理活性の検討を行った。 ビスラクトンは、マレイン酸ジメチルとTosMICとの[3+2]双極子付加環化反応及び臭素化により調製した2,5-ジブロモピロール-3,4-ジカルボン酸エチルと4-イソプロポキシ-2-メトキシメトキシフェニルボロン酸エステルとのダブルSuzuki-Miyauraクロスカップリング反応を基盤として、全8工程通算収率17%で合成した。ビスラクトンのがん細胞(HeLa)及び正常細胞(Vero)に対する増殖阻害活性を調べたが、いずれの細胞に対しても100nM濃度でも顕著な活性を示さなかった。また、10μM濃度でトポイソメラーゼIに対する酵素阻害活性も認められなかった。活性が消失した理由は、(1)ビスラクトンとすることで分子全体の構造が変化し酵素の結合部位に適合しなくなったこと、あるいは、(2)接近した二つのカルボニル基を有しており、これらの非共有電子対の反発によりラクトン環が不安定で、生理的な環境下で加水分解され代謝されたことが考えられる。 イソラメラリンは生体内で加水分解される可能性があるラクトン環を有しているので、より安定なラクタム環に変換したアザイソラメラリンを合成し生理活性を調べた。アザイソラメラリンは、イソラメラリンの合成中間体2-プロモ-7-イソプロポキシ-1-メチル-8-メトキシ-1H-ベンゾ[g]インドール-3-カルボン酸メチルと4-ベンジルオキシ-2-tert-ブトキシカルボニルアミノフェニルボロン酸エステルとのSuzuki-Miyauraクロスカップリング反応、脱Boc化、ラクタム化、及び脱イソプロピル化反応により合成した。アザイソラメラリンのHeLa細胞に対する毒性をMTT法により調べたが、イソラメラリンの約1/3.5の活性しか示さなかった。この理由は、ラクタム部分が互変異性によりラクチム型へと変化しているためと考えられる。N-アルキル化等により互変異性化を防ぐことにより活性が増大する可能性がある。
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