研究課題
アオコを形成する藍藻類が産生する肝臓毒であるマイクロシスチンLR(MCLR)は、プロテインボスファターゼPP1及びPP2Aを特異的に阻害し、高濃度曝露によりヒトを含めた動物に急性の肝不全を誘発し、また低濃度慢性曝露により肝がんの発がんプロモーターとして機能する環状ペプチドである。最近報告者らは、MCLRの肝細胞内への選択的取り込みの責任分子として有機アニオントランスポーターのOATP1B1およびOATP1B3を同定し、PP1およびPP2Aの阻害を介して生存ならびにストレス応答に関わる各種のMAPKsがリン酸化し、活性化することを明らかにした。しかし、その毒性発現機構にはまだ不明な点が多く残されている。そこで、発がんプロモーションに関わる細胞内シグナリングを細胞の運命の振り分け役で転写調節因子のp53を中心に解析した。すなわち、MCLRの輸送責任分子であるOATP1B3をヒト胎児腎臓由来の細胞株HEK293細胞に強制発現させたHEK293-OATP1B3細胞を実験に供した。MCLRの細胞毒性はMTT法を用いて評価した。各種タンパク質のリン酸化は、イムノブロット法を用いて解析した。p53阻害剤であるpifithrin-α並びにp53 mRNAをpSuppressor p53 shRNAプラスミドを一過性にトランスフェクトしてノックダウンし、MCLRの細胞毒性を評価した。解析の結果、以下の点が明らかになった。72時間曝露においてアポトーシスを誘発する致死濃度である50nMのMCLRを24時間曝露したHEK293-OATP1B3細胞は、p53が安定化し、その細胞内蓄積量が増大した。そして、p53のリン酸化が亢進して転写因子として活性化し、その転写因子活性により細胞周期を停止させる機能をもつp21が発現上昇した。また、同時に細胞増殖を活性化する機能をもつAKTがリン酸化し、活性化した。次にp53の活性阻害剤であるpifithrin-αの作用ならびにp53 mRNAの発現をノックダウンした結果、MCLRの細胞毒性が緩和された。以上の結果からMCLR応答性の細胞死シグナルと生存シグナルのバランス制御にp53が関与していることが明らかになった。
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