研究概要 |
アオコを形成するある種の藍藻類が産生する肝臓毒マイクロシスチン-LRは、急性曝露で肝不全を引き起こし、また、イニシエーション後の肝細胞に対して慢性低濃度曝露で肝がんの発がんプロモーターとして機能する。我々はこれまでにマイクロシスチン-LRの肝細胞特異的な毒性発現の分子機序を明らかにしてきた。近い将来にマイクロシスチン-LRが、水道法の改正等により要検討項目から少なくとも水質管理目標設定項目に引き上げられることが望まれ、結果的に我が国の健康水準がより上昇することが期待される。延いては諸外国で発生しているマイクロシスチン中毒の発生予防や対症療法に貢献し、世界中の人類の公衆衛生の向上に寄与することを目的とし、我々がこれまでに解明したマイクロシスチン-LRの毒性発現の分子機序をもとに海綿由来の天然化合物群を用いてマイクロシスチン-LRの毒性発現を抑制する中毒予防対策・治療法の礎を築くことをめざし、解析を進めた。 柑橘類の苦み成分でフラボノイドの一種であるナリンジンが、活性酸素の消去ならびにOATP1B1およびOATP1B3を介したマイクロシスチン-LRの細胞内取り込みを阻害することにより,細胞毒性の発現を抑制することを明らかにした。また,アメリカオオアカイカ由来のセラミド誘導体セラミドアミノエチルホスホン酸,奄美大島産のある種の海綿から単離したトリテルペノイドの一種であるステリフェリンAにマイクロシスチン-LRの細胞毒性を減弱する効果があることも突き止めた。
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