魚類コラーゲンは、酢酸などの弱酸および希薄な強酸などに対する溶解性が極めて高く、化学的に不安定であることが知られている。長年の謎とされてきた不安定性の原因の1つとして、分子間架橋の量や質が哺乳動物のものと異なることが予想されている。しかし、魚類ではコラーゲンの架橋に関する研究は僅かであり、その架橋形成機構に至っては全く不明である。トラフグTakifugu rubripesを用いた研究より、LH1およびLH3に比較してLH2の発現量が顕著に少ないことが明らかになった。その結果より、魚類コラーゲンが化学的に不安定であるのは、LH2の発現量が少ない、あるいはさらにその活性が弱いために、安定な架橋形成の前初発反応が起こり難いのではないかと予想される。さらに、魚類コラーゲンの架橋形成機構を明らかにすることを最終月標とし、比較的安易に入手可能なコイCyprinus carpioを用いて魚類LH2に関する知見の集積を試みた。RT-PCRおよびRACE法の結果、コイLH2の一次構造の決定に成功した。得られたコイLH2 cDNAは、5'非翻訳領域に83bp、ORFに1548bp、3'非翻訳領域に449bpを有し、全長2080bpであった。演繹アミノ酸配列は518残基のアミノ酸より構成されていた。コイLH2およびGAPDHの遺伝子特異的プライマーを用いる各組織における発現解析の結果、実験に供したほとんどの組織においても発現することが示された。しかし、その発現量は組織により異なり、脾臓でやや高い発現が認められた。一方、皮、鰭および肝臓における発現量は低かった。この結果は、トラフグを用いたLH2 (LH2aおよびLH2b)の発現解析結果とは異なり、LH2発現様式には魚種により特異性があることを示唆していた。
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