魚類コラーゲンは哺乳動物のものと比較して酸に対する溶解性が極めて高く、化学的に不安定である。その原因の1つとして、分子間架橋の量や質が異なることが予想される。哺乳動物においてリジルヒドロキシラーゼ(LH)は、コラーゲン分子の架橋形成初期段階の反応を触媒すると考えられている。LHには3種類の分子種が確認されており、LH1は三重らせん領域、LH2はテロペプチド領域のリジン残基の水酸化を触媒することが知られている。LH3については、未知である。一方、魚類においてLHの知見はほとんどない。本研究では、魚類コラーゲンの架橋形成機構を解明するために基礎的知見の集積を目的として、コイLH分子種のmRNA発現量を検討した。 コイの13組織(心臓、鰓、腎臓、脾臓、肝臓、脳、胆嚢、眼、普通筋、血合筋、皮、尾鰭および鰾)から全RNAを抽出した。逆転写反応から得たcDNAを鋳型とする定量的PCRにより、各組織におけるLH1~3mRNAの発現量を求めた。 全てのLHmRNA発現が検討した全組織において認められた。LH1は、肝臓において非常に低く、脳および血合筋においては高かった。一方、LH2は、腎臓、鰾および皮において非常に低い発現量を示し、脳、普通筋および鱒では高かった。LH3は、組織間における発現量の差が小さかった。魚類の皮は一般的に酸溶解性が高いことが知られている。酸に対して安定な架橋形成反応を触媒することが予想されているLH2の発現量が低いことが、コラーゲンの化学的不安定性に関わる要因の1つであることが示唆される。
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