タウロピンは海産無脊椎動物に広く分布し、嫌気的エネルギー生産に関わる生理機能が明らかにされている。一方、無脊椎動物におけるタウロピンの発見に先んじて、一部の紅藻類に紅藻酸(タウロピン)が分布することは古くから知られていた。しかしながら、海藻におけるタウロピンの生理機能は全く明らかにされていない。本研究では、陸上植物と土壌細菌の間のオピン類を介した寄生もしくは共生関係に着目し、紅藻と海洋細菌の間にタウロピンを介した寄生または共生関係が存在する可能性を証明しようとしたものである。 最終年度である平成24年度には、①ハリガネより精製したタウロピン脱水素酵素の部分アミノ酸配列情報をもとに、mRNAより調製したcDNAを鋳型としてハリガネ・タウロピン脱水素酵素のcDNAを増幅、クローニングし、塩基配列情報と全アミノ酸配列を得て、②既に単離済みのタウロピン資性化細菌に類似の配列を有するDNAが存在するか否かを確認する計画であった。 平成23年3.11の東日本大震災の影響を受け、研究拠点を岩手県大船渡市から神奈川県相模原市へ移さざるを得なかったため、材料の紅藻ハリガネは千葉県銚子市、神奈川県横須賀市から入手した(平成25年5月現在も大船渡市沿岸ではハリガネの回復がみられていない)。平成24年4月、11月にハリガネをサンプリングし実験に供したが、銚子産、横須賀産のハリガネでは目的DNAの増幅が確認されなかった。両サンプルについてエキス中のタウロピン含量を測定したところ、前駆アミノ酸であるタウリンは認められたものの、タウロピンの存在を確認することができなかった(大船渡産ハリガネについては、過去にタウロピンの存在を確認している)。このことから、実験に使用したハリガネには目的遺伝子が発現していなかったものと考えられた。研究の実施のためには三陸沿岸の海藻類の再生を待たねばならない。
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