平成21年度~23年度に4回に渡って実施した「食の安全に関する消費者定点Web調査」の全てに継続回答した回答者(N=441)の回答データに縦断的因子分析を適用し、食の安全に対する消費者の総合的信頼水準を構成する次元(因子)とその構造変化の分析を行った。分析の結果,食の安全に対する消費者の総合的信頼は,福島第1原発事故に伴う食品の放射能汚染問題発生前後と同様に,食の安全の楽観視と悲観視という2次元で捉えられ,その構造は福島第一原発事故後も変わっていないことが確認された。 そこで、食の安全の楽観視と悲観視に影響する要因を、各因子得点に対する回帰分析で検討した結果、次のような知見が得られた:政府や食品メーカーによる食のリスク管理に対する信頼が高く、認知欲求が低いほど、食の安全について楽観する傾向が高まると同時に悲観する傾向が弱まる。食の安全を楽観する傾向と悲観する傾向は、過去における楽観傾向と悲観傾向の双方から影響されている。個別のハザードでは、食品の放射性物質による食品汚染、飼料の安全性、家畜への抗生物質投与、食品添加物、遺伝子組換え食品、クローン家畜由来食品、産地・原材料の偽装といった事項への不安度が食の安全の楽観視や悲観視に影響を与えている。 また、23年度に実施した首都圏在住者(N=392)を対象とするweb調査結果に基づき、福島第一原発事故後の産地別牛肉の選択実験分析を行った。その結果、放射性物質検査の結果が暫定規制値以下の福島県産牛肉に対する支払意志額と、暫定規制値の1/10以下の福島県産牛肉に対する支払意志額の間に有意な差はなかった。さらに、鹿児島県産牛肉について同様の分析を行った結果、放射能汚染がほとんど懸念されていない産地と懸念される産地が同じ対策を講じると、後者の産地における対策の効果が希薄化する可能性があることが明らかにされた。
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