農業協同組合(農協)の成立要因を自治村落によって説明しようとする齋藤仁氏の主張がある。本研究は、この主張の妥当性について検証することを課題としている。 本年度は、アメリカ農業および北海道農業の専門家からのヒアリング、イギリスの農協関係の資料を豊富に所蔵するプランケット・ファウンデーションにおける文献収集、さらにはイングランド、ウェールズ、スコットランドにおける農協の展開事情と村落の関係に関する農協関係者や学者からのヒアリングおよび資料収集を実施した。初年度の成果は次のとおりである。 北海道の新開地における協同組合の形成には、都府県で形成された村落の共同性が移植されたことが判明したが、アメリカについてはこの点については引き続き検討を要する課題として残された。アイルランドの農協が中農層を基盤に形成されたことはわかったが、自治村落との関係は不明なままにとどまった。そのほか、スコットランドの農協形成が19世紀半ばと早いこと、ウェールズのような散居型集落ではもともとコミュニティの力が弱かったであろうこと、イングランドの農協発展の不調には、生協の早期的発展、自由貿易国としての英連邦農産物輸出国との連携、第一次大戦後の農業保護廃止による農協運動挫折の精神的影響、1930年代以降の強制加入型のボード形成がもたらした自助精神の弱体化等が関係していること、イギリスにおける村落研究は資料に恵まれたイングランドに集中しており、ウェールズやスコットランドについての知識は充分には蓄積されていないこと、イングランドにおける封建制の弱体化は14世紀頃からと早く、しかも地域によっては三圃制が実施されなかったので、自治村落の形成の議論は複雑になること、などが明らかとなった。
|