農業協同組合(農協)の成立を自治村落によって説明しようとする齋藤仁氏の主張の検証が、本研究の課題である。本年度は、デンマーク、オランダ、アイルランドにおける農協の展開事情と村落の関係に関して研究者からのヒアリング及び現地での資料収集を実施した。次の点が明らかとなった。 デンマーク、オランダ、アイルランドは、19世紀末に大消費国イギリスに対する畜産物輸出国になったが、その中でデンマークがアイルランドとの輸出競争に勝利した。遠心分離器という新技術の普及を契機に、デンマークで農協が加工・輸出に成功したためであるが、農協が民間企業にまさったのには、経済学で言うホールドアップ問題が関係している。すなわち、大規模なバター加工施設に投資した企業は、小規模な酪農経営からの原料乳の安定的な調達問題を抱え、取引上不利な面に直面したのであるが、農協はこの問題を回避し得たのである。なお、デンマークではドイツのライファイゼン信用組合運動の影響をまたずに農村において地方信用組合が発展し、これが加工・販売事業をベースとする農協の発展に資金供の面で貢献した。 こうしたデンマークにおけるバターの製造・販売を中心とした農協の発展に対して、アイルランドの場合には後れをとった。その背景には、アイルランド農業が小作農場制の下にあり、資金を乳製品工場の建設よりも農地購入に回さざるを得ない事情があった。 オランダについては、農協の発展がライフナイゼン信用組合運動の影響を強く受けたこと、新教・旧教という宗教上の違いも絡まって専門農協がきわめて多数存在するようになったこと、農協がデンマークと同様に海外への農産物輸出競争力を存在理由に発展してきたこと、などが明らかとなった。 デンマークでは村落を基礎とした信用組合が成立したとは言い難く、その意味では農協の成立と村落との関係は間接的である可能性があり、齋藤説に再考を促す材料となるかもしれない。最終年度の重点的研究課題とすることとした。
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