農業協同組合(農協)の成立を自治村落によって説明しようとする齋藤仁氏の主張の検証が、本研究の課題である。 本年度は、国内の自治村落が欠如した地域における農業協同組合の成立要因について検討するため、繰越旅費を使って鹿児島調査を行った。鹿児島県では、門割制度、外城制度による武士の農村直接支配によって、自治村落の発展が阻害された。 そうした鹿児島県で産業組合が発展した理由として、坂根嘉弘は政策的支援による農家小組合の形成を指摘した。他方、鹿児島県では産業組合は漁村から急速に発展を始めており、桐山修平は、漁村から農村への産業組合の普及に注目している。漁村の産業組合は信用組合を中心に発展しており、危険を伴う遠洋漁業における親族、地縁者の運命共同体的性格が、自治村落と同様の機能を果たし、漁村に産業組合を最初に発達させたとする。 明治維新以降の門割制度、外城制度の廃止が、20世紀の鹿児島農村をどのように変化させたのかという問題も検討されなければならないが、農家小組合、漁村における産業組合の発展、そして1914年の桜島大噴火に続く農村復興政策が、産業組合の増大に影響を与えたことは間違いない。 前年度までの西欧調査と、北海道・鹿児島県の事例から類推できることは、農業協同組合の基礎となる協同性が、古き共同体である村落の自治性に基づいていることもあれば、商品経済下で発展する小農集団の主体性に基づいていることもあることである。この点は詰め切れていないので、収集した文献を読破し、仮説を論証・実証したいと考えている。そして、西欧の小農集団の主体性は市民社会的・近代的なものであって、自治村落の協同性を上回る力を発揮したのに対して、わが国では自治村落の協同性に強く依存する結果となり、農業協同組合の高い加入率と事業の総合性に帰結したことが考えられる。この点の本格的な実証・論証にも今後取り組んでいきたい。
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