本研究では、帝国日本の戦時および戦後(=帝国解体期)における移民・動員・引揚げというマクロな状況をふまえつつ、そうした人口の移動が、ミクロな地域レベルでの農業・農村の変化を析出することを試みた。具体的には、戦後開拓・農地改革という戦後に特徴的なふたつの農業政策に着目した。農地改革実施過程における引揚げ者に対する不寛容さ(を強いる経済社会構造の存在)が戦後開拓事業を要請したのではないか、という作業仮説にもとついて、日本と朝鮮(韓国)における特定農村地域を対象として、実証的な分析を試みた。その分析は、日・韓それぞれの事例地域の比較検討および同時代的な相互関連性の析出というふたつの作業によって構成される。 今年次は、最終年次として研究の取り纏め作業を行った。具体的には、1)聞き取り調査が十分に進捗していない調査地(韓国全羅北道裡里市)での聞き取り調査を行なった。2)日本国内および韓国の図書館で、関連する文献資料を追加的に閲覧収集した。3)これまでに収集した資料のデータベースと聞取り調査結果の解析をおこなった。 以上の作業をふまえて、論文作成にとりかかった。日本帝国解体後=農地改革期の農村での人口移動を研究する前提として、帝国日本における人口移動を考察する必要がある。その人口移動の考察にとって、帝国内におけるいわゆる資本の原始的蓄積の諸相の分析が必須となる。そこで、植民地朝鮮における経済史研究の研究史整理作業を行い、解説論文としてまとめた。くわえて、農民の生産と生活に密接に関わる林野政策に関する研究史整理をおこなって論文にした。農地改革期の農村人口移動に関する論文作成は、作業中途の段階にある。
|