研究概要 |
本研究は,流域環境を巡り利害対立化している農林水産業のための政策理論(地域マネジメント政策の理論)を考察するものである。 本年度の調査では、環境再生事業に参加する各セクターがどのような参加動機になっているかを聞き取り、その事業の推進力を考察した。聞き取り対象は、漁協(漁民)、河川漁協(漁民、遊漁者)、農協(農民)、森林組合(森林所有者)、環境活動団体やNPO等の市民団体である。 調査結果、参加動機の背後関係が次のようになっていることが分かった。水生生物資源を生業の糧とする漁協、河川漁協については、河川環境の悪化が彼らの経営、生存に直結する。農民は農業用水を確保しなければならない水利権の保持者であり、河川の水資源の受益者である。森林の涵養機能の弱体化が水資源確保の危機に繋がる。森林組合は、涵養機能が弱体化し荒れた森林を再生させることがそもそもの任務としてあるが、その任務と流域環境の改善は直結する。環境活動団体は地元の自然のシンボルである動植物の減少や景観の悪化が彼らの危機を強めてきた。NPO等市民団体は地域活性化へのサポートをビジネスとしても任務としていることから環境再生活動の側面支援を自発的に行う動機があった。それぞれのセクターの参加動機は異なっていた。だた、それぞれにはそれぞれの立場に立脚した流域環境に対する危機感が潜在していた。河川環境の悪化の危機にさらされた漁民らの行動が流域環境の再生活動の嚆矢であったが、その後各セクターを連帯させるまでのプロセスにおいては自治体など行政組織の後ろ盾が欠かせなかった。そして、それらの共益的活動を公益的事業へとステップアップさせたことが環境再生事業の推進力形成に繋がったものと考えられる。ただし、事業予算の獲得がその前提になっていたことも必要要件であると考えられる。
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