研究の目的 前年度は、耕作放棄地に関する地域実態調査を東北・関東・中部・四国の各地域に入り重点的にすすめてきた。本年度はこれまで蓄積してきた研究成果・実態調査結果を整理しつつ集大成していき、順次、積極的に学術雑誌等に投稿し、成果を社会に還元していきたい。耕作放棄地発生のメカニズムと統計分析、そして実態調査による裏づけをすすめつつある。都道府県別にみる耕作放棄地率の高位な府県は、長崎県28.6%、山梨県26.6%、広島県22.9%、群馬県22.3%、奈良県21.4%などと続く。樹園地・桑園では傾斜地が多く耕作不便地が多い。養蚕が衰退傾向となったとき、果樹など需要の見込める新規作目へ切り替えができたところでは耕作放棄率は比較的低位である。遅くまで養蚕に執着した群馬県や福島県などは利用転換が後手に回った。長崎県は島嶼を、山梨県・奈良県は山間地を多く抱え、それら地域はともに耕作放棄地率が高い。 耕作者主義のもとで、所有するものが農地を「自ら耕作するもの」に良好な耕作状態での利用を義務づけているにもかかわらず、それが果たせず「自ら耕作せざるもの」となっている。かつて農地であったものの、耕作放棄状態が長く続くと、もはや農地に復元することが困難に段階に至った場合、すでに当該農地は非農地化したと判断される。農水省集計より、農用地区域内、農用地区域外に「緑」・「黄」、そして「赤(判断未了)」・「赤(非農地)」に分類しつつ全体推計している。とりわけ農用地区域内の「赤」部分を即座に農地から外すという考え方は461万haの農地総量確保という流れに逆行する。農用地区域内の耕作放棄地は限りなく農地に復元し、農用地区域外の耕作放棄地については山林に転用するなり里山保全を図っていくか、企業参入を積極的に推進する途もまた考えられてよい。本年度の研究目的としては実態調査をすすめつつ、そうした耕作放棄地の発生メカニズムと解消方法とをさらに地域性を考慮しつつ詳細に分析・解明することにある。
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