今年度は食品関連企業による農業参入の事例を調査した。事例では、調査企業は不振である地域農業の振興を目的に、当該自治体や農協とも協力していわゆる特区申請をして事業を行っている。経営している農業は米作が中心で、いわゆる減農薬や有機栽培などの工夫を凝らしている。また、消滅しかけている地域の特産野菜の復興なども手掛けている。経営自体は赤字が続いており、それを本業で補うかたちで運営されている。一般に、異業種による農業参入は批判すべき諸問題が多いとされるが、本件は地域と一体となった運営がなされており、その点において企業による農業参入(農業経営の法人化)には多様性があり、経営上はそれを精査分類する必要があり、法制度上はそれをどのように支えるかについて議論の余地があるように思われる。 上記実態調査のほか、本研究の基礎となる商法・会社法上の研究も行った。そのひとつは会社の法人性と関連する会社の権利能力の問題についてであり、これは古くからある法理論上の論点であるが、実務上においては会社の定款上の目的との関わりで議論の対象とされている。ここでは判例の分析等も踏まえて、法理論上から整理をした。もうひとつはいわゆる企業統治についての研究であり、これは企業の経済的、経営的、法律的諸側面に関連するものであり、農業経営の法人化においても、特に異業種からの参入のような場合においては、注視されなければいけない領域である。しかしながら、その一方で企業統治の概念については明確な定義がなされているとはいえいない。本年度の研究では、下準備ながらかかる点を中心に基本事項の整理を行った。そのほか、農地法改正の動向および個別所得補償制度について資料を中心に整理した。
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