研究概要 |
ヒトロタウイルスは乳幼児下痢症の主因であり、発展途上国を中心に年間60万人の死者が出ている。申請者はこれまでに、牛乳初乳カッパカゼイン(κ-CN)がヒトロタウイルス感染を強力に阻害することを明らかにした。本研究では、ウシ初乳のκ-CNの示す強力な本ウイルス感染阻害作用について、作用発現に不可欠な分子構造の詳細を解明することを目的とし、日本国内で出荷可能である分娩後6,7日目初乳(後期初乳)と常乳に含まれるκ-CNを用いて比較・検討することを目的とした。 後期初乳および常乳から定法に従って調製したカゼインフラクション(CN)をProteinGアフィニティーカラムに供し、抗体成分を除去した。次に、抗体除去CNについて、疎水性相互作用クロマトグラフィー(TSKgel Ether-5PW)に供してκ-CNの分離を行った。全CN中κ-CNのみが糖鎖構造を持つことから、ABA(0型糖鎖構造を認識するレクチン)の反応性を調べたところ、κ-CNが高純度で精製されていることが確認できた。この精製κ-CNについて中和活性測定を行った結果、後期初乳及び常乳のκ-CNの両者でヒトロタウイルスMO株に対する感染阻害活性を確認した。 次に、阻害活性の基盤が糖鎖構造であるかを検討するため、加熱処理による活性の変動を検討した。その結果、加熱処理による活性損失などの影響は見られず、10μgprotein/ml濃度範囲において50%近い感染阻害活性が観察されたことから、糖鎖構造の活性への関与が指摘された。また、常乳と後期初乳では活性に顕著な差異は見られなかった。更に、トリプシン消化による活性の変動を検討したところ、消化後も活性が保持されていたことから、糖鎖構造の関与が確認される結果となった(50%感染阻害に必要なタンパク質濃度(MIC):後期初乳κ-CN0.011μg/m1、常乳κ-CN 0.02μg/ml)。 本年度は活性の基盤となる糖鎖構造の詳細については未検討であった。
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