伝統的な発酵食品は長い年月をかけて複数の微生物からなる安定な菌叢(フローラ)が構築されている場合が多い。その菌叢は微生物同士が共生と拮抗を経て安定的な菌叢を確立したものと考える。伝統的な発酵食品の菌叢を詳細に把握することは、その発酵食品を安定的に製造、あるいは商業的に生産する際の微生物制御において重要となる。本研究は、従来の培養法に加えDGGE法(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)を併用することによって馬乳酒を構成する微生物のうち特に乳酸菌叢を調査し、新たな特性を持った菌種やマイナーではあるが馬乳酒の特性を形づくるのに不可欠な菌種の機能を解明することを目的とする。まず、モンゴル国ならびに中国内モンゴル自治区から採取した馬乳酒の20サンプルから培養法によって合計379株の乳酸菌を分離した。それらの菌株をアピシステムおよび16SrDNA配列などによって同定したところ、乳酸球菌ではLactococcus lactis、Leuconostoc mesenteroidesが、乳酸桿菌ではLactobacillus paracasei、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus helveticusが主要菌種であった。Streptococcus thermophilus、Lactobacillus brevisなどの乳酸菌も含まれていた。また、馬乳酒の発酵状態によって球菌が主要菌叢を占めるサンプルと桿菌が主要菌叢を占めるサンプルがあり、発酵の進んだサンプルでは桿菌が多く検出されるが、実際の発酵工程では球菌も多く関与していることが示唆された。一方、DGGE法では前述の主要菌種が同様に検出され、発酵の進んだサンプルでも球菌が検出された。モンゴル国ならびに中国内モンゴル自治区から採取した馬乳酒の菌叢を比較したところ、主要菌種についてはほぼ同様な結果が得られたが、マイナーな菌種については違いが見られた。今回分離同定した乳酸菌については、新たな機能を持った菌種・菌株の特定ならびに馬乳酒の製造に不可欠な菌種を解明することが必要である。
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