伝統的な発酵食品は長い年月をかけて複数の微生物からなる安定なフローラ(菌叢)が構築されている場合が多い。そのフローラは微生物同士が共生と拮抗を経て安定的な菌叢を確立したものと考える。伝統的な発酵食品の菌叢を詳細に把握することは、その発酵食品を安定的に製造あるいは商業的に生産する際の微生物制御において重要となる。本研究は、従来のプレート法に加えDCCE法(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)を併用することによって馬乳酒を構成する微生物フローラを調査し、新たな特性を持った菌種やマイナーではあるが馬乳酒の特性を形づくるのに不可欠な菌種の機能を解明することを目的とする。昨年度に引き続き、モンゴル地域(モンゴル国と中国内モンゴル自治区)から採取した馬乳酒試料を供試し、乳酸菌と酵母の分離・同定を行った。まず、プレート法によって調べた優勢な乳酸菌種としてはLactococcus lactis subsp. lactis、Lactobacillus paracasei subsp. paracaseiなどの中温性ホモ型乳酸菌が分離され、これらはモンゴル地域において共通性を示す菌種であった。酵母菌種としては乳糖発酵性のCandida kefyr、Kluyveromyces marxianusおよび乳糖非発酵性のC.krusei、Saccharomyces cerevisiaeなどが分離された。また、馬乳酒の発酵状態によって球菌が主要菌叢を占めるサンプルと桿菌が主要菌叢を占めるサンプルがあり、発酵の進んだサンプルでは桿菌が多く検出されるが、実際の発酵工程では球菌も多く関与していることが示唆された。一方、DGGE法では前述の主要菌種が同様に検出され、発酵の進んだサンプルでも球菌が検出された。次に、分離菌株の商業的な利用を目指した研究において、モンゴル地域の馬乳酒起源の乳酸菌と酵母を用いて微生物間相互作用を詳細に検討したところ、乳酸菌と酵母には双利共生作用を示すものがあり、それらを組合せたスターターは効率的なアルコール発酵乳の製造に寄与すると考えられる。また、GABA生産活性や抗菌活性に優れた乳酸菌も分離されており、それらを用いた機能性発酵食品の創製が期待される。
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