研究概要 |
1. わが国暖地の小規模肉用繁殖牛経営農家では,自給粗飼料の安全性と配合飼料価格の高騰から,省力的・環境保全的な暖地型牧草の放牧利用が注目される。本研究では新規暖地型牧草・倭性ネピアグラス(以下DL)の南九州地域への普及促進を目指し,栄養繁殖のDLの安価な苗供給体制として,晩秋に作成したセル苗をガラス温室で越冬させ翌春圃場に定植する方法と,省力的・軽労働な移植方法として,長ネギ・ニラ移植機によるセル苗移植法を開発し,既存の人力苗定植法と比較した。DL株を,人力(MP)あるいは刈払い機(MC)で刈取り,分げつ芽1節ずつのセルトレイ苗を養成したが,MPでの刈取りは,MCに比べて約43%労働効率が低下し,MC移植はMP移植に比べて,約14%労働効率が低下した。DLの定着率や成長量に,移植方法の差異はなかった。したがって,DLの機械移植用のセルトレイ苗養成方法と機械移植方法が確立できた。 2. 南九州への普及促進として,鹿児島県三島村黒島(30°49'N, 130°48'E,面積15.2km^2,年平均気温19.4℃)で,カンザンチク(以下P1)優占野草地での冬季~春季の食滞発生を回避し,粗飼料供給量と品質向上を目的に,DLと暖地型マメ科牧草の導入を検討した。アコーギ牧野では,P1の優占野草地約28aに,DL苗を移植し12.9kgN/m^2/年の施肥により,春季以外ではP1に比べてDLの草量・葉身比率が高く,DL導入で粗飼料供給量が高まること,DLの消化率は,全期間でP1や雑草に比べて高く,特に茎の消化性の差が顕著で,食滞の発生軽減につながると推察された。尾平瀬牧野では,DLと暖地型マメ科牧草3草種の混播を検討し,マメ科牧草は1年目の草量は低かったが,2年目のグリーンリーフデスモディウムおよびサイラトロでは畦間をほぼ被覆し,DLの1/2~1/3の乾物収量が得られた。
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