放牧家畜が強害雑草エゾノギシギシ(以下、ギシギシ)を忌避する原因はタデ科植物に多いシュウ酸(えぐ味物質の1つ)が関係していると考えられているものの、シュウ酸に対する山羊の味覚反応については明らかにされていない。本研究では、シュウ酸カリウム水溶液に対する山羊の味覚反応を検討するとともに、各生育段階のギシギシ中シュウ酸含量を定量し、シュウ酸含量と山羊の採食性との関係を明らかにした。まず、シュウ酸カリウム水溶液を5段階の濃度(0.05、0.1、0.2、0.4および0.8%)に設定し、水道水を対照とした2瓶選択法による味覚反応実験を行った結果、すべての濃度のシュウ酸カリウム水溶液に対して飲水が確認されたものの、その選好指数は42.7~66.7%で推移し、0.4%で弱い嗜好を示した以外、忌避も嗜好も示さなかった。次に、3~4生育段階(栄養生長初期、栄養生長後期、抽苔期および出蕾期)のギシギシについて、全、可溶性および不溶性シュウ酸含量を高速液体クロマトグラフィーにより定量したところ、可溶性シュウ酸含量は乾物100g当たり1.2~3.0gと生育段階によって変動する傾向がみられた。また、山羊2品種(トカラおよびヌビアン成雌)を供試して全点自由選択法によるギシギシの嗜好試験を行ったところ、ギシギシの嗜好順位は試験日間、山羊個体間および品種間で一致せず、ギシギシに含まれるシュウ酸含量と山羊の採食性との間に明確な関連はないものと考えられ、山羊はシュウ酸含量の高い特定のギシギシを忌避するものではないことが明らかとなった。上述したように、山羊は0.8%以下の可溶性シュウ酸水溶液に対して忌避も嗜好も示さなかったこと、ならびに供試ギシギシ中の可溶性シュウ酸含量を新鮮物100g当たりに換算すると0.09~0.45g、つまり濃度0.09~0.45%となり、0.8%以下であることから、当該濃度のシュウ酸を含有するギシギシに対して山羊は忌避しなかったものと推察された。 以上より、ギシギシ中のシュウ酸が山羊にとって採食忌避物質ではないものと考えられ、むしろ山羊に対するギシギシ刷り込みの可能性が示唆された。
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