細菌は細胞や粘膜に付着することで消化管内に定着し、その生存を可能としている。このため、細菌の細胞や粘膜に対する付着機構の解明は、有用細菌のさらなる利用および感染症に対する新たな対処法の開発に役立つと期待される。本研究室では、Lactobatillus reuteri JCM1081株がHelicobacter pyloriのスルファチドへの付着を阻害すること、JCM1081株がスルファチドに対する付着因子として、翻訳伸長因子であるElongation Factor Tu(EF-Tu)を持つことを報告しており、その付着機構の解明を目指している。本研究では、EF-TuのJCM1081株以外の乳酸菌における細胞局在性の解析と、EF-Tu組換え蛋白質と推定受容体との結合性の評価を行うことを目的とした。 EF-Tuの局在性については、継時的に採取した菌体培養液を、培養上清・菌体表層・菌体の3つの画分に分け、それぞれの画分のEF-Tuをウェスタンブロッティングで検出した。供試菌株としてL.reuteri4株、L.gasseri5株を用いた。また、L.reuteri JCM1081株とL.gasseri SBT2055株のEF-Tu組換え蛋白質と推定受容体であるスルファチド及び細胞外マトリックス(ECM)との結合性を表面プラズモン共鳴法で評価した。 EF-Tuの細胞局在を調べた結果、菌体内だけでなく、全ての菌株の菌体表層及び培養上清画分にEF-Tuが検出され、EF-Tuが菌体外に存在することが示された。また、培養上清中のEF-TuはpHの低下に伴い減少した。組換えEF-Tu蛋白質と推定受容体の結合性を測定した結果、JCM1081株、SBT2055株ともにpHの低下に伴って結合性が強くなる傾向が見られ、菌種による結合性に差は見られなかった。以上の結果から、EF-Tuの局在性及び結合性にはpHが影響を与え、細胞への付着を制御していると考えられた。
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