研究概要 |
生態系の炭素貯留能(CO_2固定能)は生態系タイプによって異なり,地域や気象要因によってさまざまに変動する。京都議定書では,CO_2放出量削減策の対象として森林生態系のCO_2固定能に着目してきたが,ポスト京都議定書(すなわち2013年以降の取り組み)には,非森林生態系を含めることが重要になると考えられる。本研究は,炭素貯留能がシンクにもソースにも変動する可能性がある草原生態系に着目し,半自然ススキ草原を対象として,炭素貯留に対する環境要因の作用メカニズムを明らかにすることを目的とする。 昨年度に引き続き,草原植物の生育期間中(4月下旬から10月中旬),以下の項目について測定を行った。地上部葉群の成長を明らかにするため,全天写真を毎日撮影し,開空率に基づいて葉面積指数(LAI)を推定した。手法的な比較のため,LAIメーター(プラントキャノピーアナライザー)による測定を毎,月1~2回行ったことに加え,葉群内外の光環境(PARとNIR)を自動モニタリングし,これら相互のデータを解析した。土壌からのCO_2放出(土壌呼吸)を明らかにするため,通気式-赤外線分析法による土壌呼吸,および地温・土壌水分などの土壌環境要因を自動測定した。また採取した土壌を用い,微生物組成や土壌の物理化学性(ガス拡散特性,CN分析など)について分析し解析を進めている。これらの結果に基づいて上記草原の炭素貯留パターンに対する,環境要因(降雪・降水による土壌水分,温度,日射量など)の影響を解析中である。LAIについては順調にデータが得られており,上記複数手法によるバリデーションを進めている。平成22年度に土壌呼吸測定システムの一部に不具合を生じたので修理または一部を交換し,23年度に測定を継続したが,不具合を解消しきれなかった。現在不具合解消の見通しを立てて,最終年度の研究を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に示したとおり,平成22年度に生じた機器の不具合について,23年度に対応を十分に行えなかった。具体的には,土壌からのCO_2放出測定用システムの制御装置が故障したため,新たな制御装置を用意し,交換した。当初はうまく動作していたが,その後に他の機器(空圧用コンプレッサ)にも不具合を生じた。これらのトラブルによって土壌からのCO_2放出測定データを十分に得られなかったこと,一方,地上部葉群動態については,研究が順調に進んでおり,興味深い結果が得られていることから,達成度の自己点検評価を区分(3)とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度が本研究の最終年度に当たる。これまで3年間の成果をまとめつつ,上半期にとりまとめの方向性を確立し,積雪期直前の11月まで最終年度の野外測定を予定している。 本研究の調査対象地は遠隔地であり,機器のメンテナンスを毎月1回程度の調査時に行ってきた。このため即時に機器のトラブルに対応できないことが,本研究の最大の問題点である。上記の土壌からのCO_2放出測定用システムについては,できる限り,制御装置をシンプルにしてトラブルが起こりにくいように調整し,空圧用コンプレッサは交換する予定である。これらの対応により,状況を改善できる見通しを立て,最終年度の研究に臨みたい。
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