本年度は、高泌乳牛・低受胎牛の体内における卵子の成熟・受精動態の検討に着手するとともに、モデルとなる体外成熟卵子の受精・発生能獲得動態と少数の体内発育卵子の成熟・受精動態の解明に必要な卵子の個別培養法の検討を行った。また、低受胎牛(リピートブリーダー)にみられる子宮内膜上皮成長因子(EGF)の発現異常についても検討した。 体外成熟卵子の受精・発生能獲得動態については、核成熟動態を確認するとともに、成熟培養時間の異なる卵子の受精・発生能を調べた。その結果、受精・発生能は成熟培養22時間前後で高くなり、培養時間が長くなると受精・発生率が低下した。ついで、核成熟後(MII期到達後)の受精・発生能獲得動態を調べるために、卵丘細胞除去卵子(裸化卵子)の体外受精の条件について検討した。その結果、媒精培地にヘパリンとPHEを添加すると正常受精率が高くなることと、媒精時の気相の酸素濃度を5%にすると受精・発生率の高いことが分かった。また、この裸化卵子の体外受精系を用いて、MII期到達後の受精・発生能獲得動態について検討した結果、体外成熟卵子はMII期到達後6時間前後で受精・発生能が向上することが示された。 卵子の個別培養法については、成熟培養と発生培養における個別培養法について検討を行い、小型Wellを用いた成熟培養とWell of Well(協力者試作品)を用いた発生培養により、従来の群培養(多数の卵子をdrop内で培養)と同等あるいはそれ以上の高い受精・発生率が得られることが分かった。 低受胎牛の子宮内膜EGF発現異常については、牛の精漿(タンパク質成分)を腟内に注入することによって修復され、受胎性が恢復することを示唆する知見が得られた。
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