本年度は、高泌乳牛・低受胎牛における卵子の成熟・受精動態を明らかにするため、まず、卵子の成熟・老化動態については、体外成熟卵子をモデルに第二成熟分裂中期(MII)期到達前後の異なる時期に体外受精を行い、卵子の核成熟後の受精・発生能の変化について解析した。その結果、受精・前核形成・発生能は、MII到達4~6時間後から徐々に上昇、10~12時間後にピークとなり、14~16時間後には急激に低下することが示された。また、GnRHにより排卵を誘起した牛の排卵直前の成熟卵胞から超音波ガイド経膣法により卵子を採取して微細構造を調べ、体内成熟卵子の細胞内微小器官の形態・分布の特徴を確認するとともに、GnRH未投与牛から採取した卵子(細胞質未熟卵子モデル)との相違点も明らかになり、成熟異常卵子の検討に必要な指標が得られた。 2)卵子の受精動態については、正常排卵時期や排卵異常の予測が可能か否か、膣内に温度センサーを留置して連続測定し、発情・排卵期の膣温変化と排卵の時間的関係を調べた。その結果、正常排卵牛の膣温は発情時(エスラジオールのピーク時)に特異的な上昇を示し、膣温上昇から排卵までの時間は一定範囲(25±3時間)にあることが分かった。また、無排卵の牛では発情・排卵に特異的な膣温変化がみられず、排卵異常の予知ができる可能性も示唆された。さらに、体外受精モデル実験では、従来の媒精培地にPHE(ペニシラミン、ヒポタウリン、エピネフリン)を添加して、その受精促進効果を確認するとともに、低濃度精子でも雄牛のよる差異が少なく、高い受精・胚発生率も得られることが分かった。さらに、この受精系は選別精液(X-精子)でも雄牛のよる差異も少なく、高い受精・発生成績の得られることが分かり、選別精液を用いた体内受精動態の検討に必要な基礎データが得られた。
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