ウシ骨格筋の筋紡錘の形態学的特徴と紡錘外筋線維の筋線維型分布との関連を解析するため、通常の日本短角種若齢牛14ヵ月齢6頭と20ヵ月齢6頭より後肢および前肢帯の骨格筋35種類、ホルスタイン種6ヵ月齢18頭より腰最長筋、胸腹鋸筋、中間広筋および半腱様筋を採取し、また、そのうち6頭については骨格筋20部位を採取した。ホルスタイン種の骨格筋においては、中間広筋のようにI型筋線維の多い筋でミオスタチン(MSTN)mRNAの発現が低く、半腱様筋のようにIIB型筋線維の多い筋でMSTNmRNA発現が有意に高いことが示された。Fast型ミオシンを持つ筋線維型が優勢な筋ほどMSTN発現が高い傾向にあり、筋線維型分化とMSTNの作用機序に関連性があることが示唆された。 放牧牛において、放牧による運動効果によって筋線維型の機能的適応が生じ、筋線維の肥大とI型およびIIA型筋線維の割合の増加が起こることが明らかとなった。その際に同じ筋線維型でも放牧によってNADH脱水素酵素活性が亢進していること、MSTNmRNAの発現が減少して、筋線維型の移行機序に影響を与えることが示唆された。随意運動による筋線維型の機能適応は筋紡錘を介した運動制御機構によるものであるため、筋感覚器とMSTN発現制御の新規の関連性を解析することは、筋線維型移行機構の解明においても意義深いものと考えられる。 さらに、筋紡錘の紡錘内筋線維の酵素組織化学的性状を骨格筋の機能と併せて解析する試みとして、ヒツジの腰最長筋と大腿部および下腿の筋において、筋線維の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(3-HBD)活性を解析したところ、紡錘内筋線維の3-HBD活性が高いことが分かった。3-HBD活性はI型筋線維の中でも特に疲労耐性の高い筋運動に適応したI型筋線維亜型にのみ発現するものである。また、骨格筋線維に3-HBD活性の高いI型筋線維亜型が多い筋ほど紡錘内筋線維の3-HBD活性が高いことが判明し、筋線維型分化と筋紡錘による筋運動制御が深い関係を持つことが確認された。
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