申請者は、哺乳類卵培養系における発生異常と卵の老化現象への酸化ストレスの関与を分子レベルで明らかにすることを目的とし、抗酸化物質欠損モデル動物として銅-亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ遺伝子の欠損マウス(SOD1KOマウスと示す)由来の卵を用いて検討を行っている。 平成22年度は、1)SOD1KOマウス卵母細胞の成熟培養系でみられる減数分裂障害のプロファイリング、2)SOD1KOマウスの卵巣機能と卵母細胞のクオリティについての経時的解析(平成21年度からの継続テーマ)を行った。その結果、1)については、20%酸素濃度下で体外成熟一受精させたSOD1KOマウス由来卵は、2細胞期へ卵割せず、第二減数分裂中期から後期で発生停止することが明らかとなった。この受精障害は、還元剤や抗酸化物質の添加、低酸素(5%酸素濃度)下での培養によっても有意に解消されなかった。SOD1KO卵では、活性酸素種であるスーパーオキシドが高濃度に検出され、抗酸化物質であるグルタチオン含量が著しく少ないことから、SOD1欠損により卵成熟中に酸化ストレスが亢進し、受精障害が起きていることが示された。しかし、卵内ATP含量やミトコンドリア活性は低下していないため、ミトコンドリア障害によるエネルギーの枯渇やアポトーシス誘導ではなく、別の機構が関与するものと考えられた。今後さらに、受精障害の詳細な分子機構について調査を進める。一方、ICR沢系SOD1KOマウスを加齢させた場合、野生型と比較し10ヶ月齢では、著しく排卵数が減少し、また得られた卵の培養系での発生能も、有意に低下することが明らかとなった。これらから、SOD1欠損により卵巣あるいは卵の老化が促進していることが示唆された。今後さらに、酸化ストレス起因する卵巣あるいは卵の老化現象の詳細な分子機構について調査を進める。
|