申請者は、哺乳類卵培養系における発生障害と卵の老化現象への酸化ストレスの関与を分子レベルで明らかにすることを目的とし、抗酸化物質欠損モデル動物として、銅-亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ遺伝子の欠損マウス(SOD1KOマウスと示す)の卵および卵巣を用いて解析を行っている。 平成23年度は、ICR系マウスを用いた1)SOD1KOマウスの卵巣機能と卵母細胞のクオリティについての経時的解析(平成22年度からの継続テーマ)、2)抗酸化物質を長期投与したSOD1KO雌マウスの卵巣機能の解析、を行った。その結果、1)については、12ヶ月齢(老齢区)のSOD1KO型と野生型の間で、排卵直後のMII期卵のATP含量と紡錘体形態に有意な差はみられなかった。一方、若齢区と比較し老齢区では、SODファミリーmRNAの発現量は有意に低下していた。これらから、加齢を伴う卵発生能の低下には、内在性抗酸化機能の低下が関与しているものの、平成22年度に得られた老齢区SOD1KO卵の発生能の有意な低下の直接的な原因は明確にできなかった。今後、ミトコンドリア機能等、さらに詳細の解析が必要である。2)については、抗酸化物質としてN-アセチルシステイン(NAC)を長期間、飲水投与を行った場合、若齢区の野生型では、卵巣重量の減少、二次卵胞や初期胞状卵胞の数の減少傾向がみられた。一方、老齢区の野生型では、二次卵胞や初期胞状卵胞の数が有意に高かった。SOD1KO型でのNAC投与の影響は、明らかではなかった。これらから、NACの長期間投与は、若齢区の負の影響については更なる解析が必要であるものの、加齢を伴う発育卵胞の減少を緩慢にする可能性が示唆された。今後、酸化ストレス起因する卵巣あるいは卵の老化現象の詳細な分子機構について、さらに調査を進める。
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