本研究では、なぜクマは体脂肪率30~40%の肥満状態でも脂肪肝や高脂肪血症を発症しないのか、その特徴的な体脂肪蓄積メカニズムを明らかにすることを目的にして次のような実験を行った。実験は、秋田県北秋田市マタギの里阿仁クマ牧場において、5~11月にかけて月1回行った。1回の実験に4頭のツキノワグマを用いた。塩酸チレタミンと塩酸ゾラゼパムの混合薬(Zoletil 100、Virbac、フランス)9mg/kgにより不動化を行い、麻酔状態下で以下のサンプリングおよび実験を行った。なお、使用したツキノワグマは前日の夕方5:00以降は絶食状態とした。 1)基底レベルの血中グルコース、インスリン、中性脂肪、コレステロールおよび遊離脂肪酸濃度を測定した。血中グルコースおよびインスリン濃度には月別の変化は見られなかったが、血中中性脂肪、コレステロールおよび遊離脂肪酸濃度は冬眠前に減少する傾向にあった。 2)グルコース投与後0~180分までおよそ30分間隔で血中グルコースおよびインスリン濃度を測定した。その結果、グルコース投与後血中グルコース濃度は一過性に上昇した後、徐々に減少し180分後にはおよそ基底値まで減少した。減少のスピードに月別変化はみられなかった。一方、血中インスリン濃度はグルコース投与直後から上昇し、およそ30分でピークに達した。この時のインスリン上昇度は11月で最も著しい傾向を示した(統計学的有意差はなし)。このように、クマは冬眠前時期に糖の取り込み速度を速めていることが示唆された。
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